【方針の転換】
ところが・・・1999.9.26に中央銀行は、それまでの「市場の価格を冷ますためには売る」方針を転換しています。
この後の10年、市場のゴールドはじりじりと価格を上げ、08年9月の金融危機以降は約2倍に急騰しています。
「1999年に、なぜ、主に欧州系の中央銀行の主導で、それまでの約20年の放出方針を一転し、金の放出に抑制をかけたのか?」、この理由は、不明です。公式には、目的が言われたことがない。
【理由の推測】従って、推測しかないのですが、(1)1990年代の安値の時代に、密かに実質所有を増やして、買い占めたグループの強い意向に、(2)欧州での、ユーロという統一通貨制度(2000年〜)の準備が絡んだものと見ています。
◎1971年の金・ドル交換停止以降、ゴールドは、米ドルの反通貨という性格をもっっています。 (1)米ドルの、世界の通貨に対する実効レートが上がると、金が売られて価格が下がり、(2)ドルの実効レートが下げると、ゴールドが買われて、価格が上がるという関係が見えるからです。
現在の金価格の高騰も、08年9.15以降の金融危機による米ドルの実効レートの低下に対する反作用でしょう。
【金融危機は続いている。そのため中央銀行がマネーを供給】
なお、米国と欧州の金融機関の危機は、その損失が、簿外と子会社に飛ばされているだけです。米欧の、住宅と商業用不動産価格の回復と上昇がない限り、金融機関の危機は解消しません。
米国FRB(米国の中央銀行)と、欧州ECB(ユーロの中央銀行)が、資金供出を続けているのは、金融機関の危機が、実質的に続いているからです。
巨額不良債権の発生(住宅・不動産証券の下落)による、金融機関のバランスシートの破壊の回復には、長期がかかります。日本では13年も続いたのです。米欧の金融機能(融資機能)の回復には、13年の半分、6年はかかるでしょう。そうすると2014年です。 政府・中央銀行による金融機関の支援は、要は貸し付けと、不良債券の一時買い取りの緊急対策です。金融機関の融資機能の回復には、金融機関が上げる利益が、自己資本にならねばならないからです。
■2.基礎データ:金の供給、需要、保有は?
▼供給は3672トン ゴールドの1年間の供給量は、2004年〜2008年の5年平均で、以下です。(WGC) 【供給】 (1)金鉱山の生産 2209トン(60%)(2)中央銀行の純売却で 447トン(12%)(3)リサイクル 1016トン(28%)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 合計 3672トン(時価で14兆円)
▼需要は3599トン 【需要】 他方、世界の需要額は、同じく2004年〜2008年の5年平均で、以下とされています。 (1)宝飾用 2436トン(68%)(2)産業用 493トン(14%)(3)投資用 670トン(19%)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 合計 3599トン(時価で13兆円)
▼データには闇がある 上記供給量の統計(年3600トン付近)は、確実なデータですが、需要の内訳は、実際のところは不明です。 世界の金(及び証券である金ETF)の売買額は、上記の需給量である3600トンが、1年に数百倍も回転していて、$20兆(1600兆円)とされます。 ◎金は、現物の流通量は、上記のように少ないのですが、実に多くの『回転売買(年間$20兆)』がある。
比較の参考に言えば、世界の貿易金額は$19兆(1520兆円:世界GDPの約25%)です。世界の1年の貿易より多い額が、金の総売買額と言えば、その巨大さがわかるでしょう。保有と、売り買いの時間が短いためです。 【地上の金の総量の通説も嘘】なお、地上の金の総量は16万トン(時価590兆円)で、50メートルプール3杯分というのが通説(WGC)です。
しかし、金は盗難・略奪はあっても、捨てる人はいない。火災でも消失はしません。 1年に2000〜2500トンの生産があれば、わずか100年でも、20〜25万トンです。金は、古代から掘られています。実際は、16万トンという公的統計の3倍以上が、地上のどこかに、どこかのグループによって退蔵されていると推計します。
多分、これらの現物は、どこかの銀行と国際金融マフィアがもつスイスや、国際決済銀行(BIS)でしょう。スイス政府の所有ではない。預金を預からない金融機関です。金融の歴史では、金を預かって預かり証(マネーとして通用した)を発行するのを銀行と言ってきました。 (注)金とはリンクしないパーパー・マネーを発行する中央銀行は、1971年以降の米ドルからです。
このペーパー・マネー化の後、大きなインフレが始まっています。ドル・金本位制の1960年代までの、世界のインフレは小さかったのです。パーパーマネー増発が、(長期では)大きなインフレを生んでいることがわかるでしょう。なおインフレは物価の上昇ですが、その本質は、増発された通貨の価値下落です。
▼保有 公的統計での保有は、以下です。(WGC) なお、金の売買は、投資用は、国際的に申告されますが、産業用と宝飾用は申告する必要がない。このため、投資用のゴールバーも、産業用とする偽装が行われることが多い。 【保有】 (1)産業用 1万9700トン(12%):工業(2)投資用 2万7300トン(17%):金融機関・ファンド・個人(3)公的保有 2万9700トン(18%):各国政府&中央銀行(4)宝飾用 8万3600トン(51%):個人〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 合計 16万300トン(時価590兆円)
世界で発掘可能な埋蔵量は、約8万トン(1年2500トンの発掘で32年分:時価で300兆円)とされます。 しかし実際のところは、この推計埋蔵量にも大きな誤差があるでしょう。 (注)採掘可能な埋蔵量は、8万トンより少ないと見ています。年々、採掘が不可能なものが多くなっているからです。なお、原油は、エネルギー価格高騰で、代替エネルギーに変わることができます。しかし、ゴールドには、代替物はありません。 主要国の公的保有(中央銀行)は、以下とされています
(IMF統計)。通貨発行額に対する準備率は正確ではありませんが、載せておきます。 これらの保有高には、いつも、大きな変動がないのが不思議です。
実際は、1980年〜1999年までの20年間の、市場への放出で減っていると見ています。当方、以下の公的保有の統計に表れない金融主体が、1990年代に多くを買って、占有的に保有していると見ています。
公的保有 2010年の 通貨発行額に対する各国中央銀行 保有量(時価) 準備率〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1.米国 8132トン(30兆円) 73%
2.ドイツ 3407トン(13兆円) 68%
3.IMF 2967トン(10兆円)
4.イタリア 2452トン(9.1兆円) 67%
5.フランス 2435トン(9.0兆円) 66%
6.中国 1054トン(3.9兆円) 1.6%
7.スイス 1040トン(3.8兆円) 24%
8.日本 765トン(2.8兆円) 2.8%
9.ロシア 669トン(2.5兆円) 5.5%
10.オランダ 613トン(2.3兆円) 55%
11.インド 558トン(2.1兆円) 7.5%
12.ECB 501トン(1.9兆円) 27%
13.台湾 424トン(1.6兆円) 4.3%
・・・
16.英国 310トン(1.1兆円) 16%
合計 2万9700トン(110兆円)
中央銀行の保有高は、議会や政府で確認されているわけではなく、任意の発表です。実際の所有量には、多くも少なくも相当な(数倍の)差があると思われます。
例えば1980〜90年代に、ドル価値の防衛のため、大きく(いくらかは不明)、金を売ってきたとされる米国FRBの保有は、8132トンで変わっていません。
金庫を写した写真は、比重が同じタングステンに金メッキした、『保有を見せびらかすための金』が混じっていることが多い。これは、米国に対し、中国政府が文句を言ったことでもある。外見では不明でも、鑑定すれば分かります。
▼戦後のブレトン・ウッズ体制(金・ドル交換制)の元になったのは、米国が略奪した金だった。
第二次世界大戦後に、戦勝国の米国は、世界の全ゴールドの70%(11万トン)を集めていたと言われます。米国FRBの最高量の持ち高は2万トン(1950年代)でした。
この膨大な米国の金が、1971年までのドル・金本位制を支えていました。当方、その後一貫して、経常収支赤字国である米国から、ゴールドが流出したと見ています。
IMFを含む中央銀行は、ゴールドバーの、まとまった最大の持ち手(合計2.97万トン)ですから、この中銀が売るか買うかで、金相場は大きく動きます。多く売れば下がり、少なく売れば上がり、買えば高騰します。
■3. 2001年から2010年の金価格 2001年から2010年の、金価格の高騰は以下です。
$インフレ調整後 名目価格 実質価格
〜〜〜〜〜〜〜2001年 $272 $333
・2000年に、日米欧のITバブル崩壊 ・2001年の9.11で、以降10年間、低金利と量的緩和を図る
2002年 $310 $369
2003年 $309 $425
2004年 $409 $464
・中銀の金売却を500トンに制限する第二次ワシントン協定
2005年 $444 $487
2006年 $603 $646
・06年、米国と欧州の不動産価格がピークをつけ、株も高騰
2007年 $695 $714
2008年 $871 $895
2009年 $972 $972
・第三次ワシントン協定で、金売却を1年400トンに制限
・IMFが価格高騰を醒ますため400トンを売る
2010年11月 $1354 $1333
・ゴールドは、08.9.15の金融危機後の約2年間で2倍に高騰
(参考)1980年ピーク名目価格$850:実質価格は$2127でした。2010年11月は、2001年($272)に対し、・名目価格で5倍(年率38%上昇)、・インフレ調整後の実質価格で4倍になっています。
2000年代の10年の、価格高騰の原因は以下の3つです。 (1)IMFを含む中央銀行(ワシントン協定15ヵ国)が、市場への売却とリースを、2004年からは1年に500トンに制限し、2009年からは400トンに減らしたこと。 (2)01.9.11後の、各国中央銀行による低金利とマネーの量的緩和で、過剰流動性が生じ、コモディティとゴールドに向かった。 過剰流動性を使うヘッジ・ファンドや個人の、レバレッジをかけた短期の利益を狙う投機的な売買が金先物で増えた。 金の先物市場は、他の先物と同じように、売りと買いの差額決済ですから、約30倍のレバレッジをかけることができます。当然に「空売り」もできます。 (3)08.9.15の金融危機で、ドルの実効レートが減価し、00年5月のユーロ危機以降ユーロの実行レートも減価した。 通貨下落の損を回避するヘッジ買いで、金投機が増えている。これが2008年の底値$700付近が、2010年11月の$1354まで、約2倍に上がった理由でしょう。 ゴールドの現物は、供給に制限があるので、ヘッジ・ファンドから数千億の投機マネーが、ゴールド市場(現物、先物、ETF)にはいると、金価格はすぐ上げます。
【米FRBの主導】1990年代までは、欧州の中央銀行は、米国FRBの主導で、「金は価値がない。政府信用が背景になっているペーパー・マネーと民間信用の株が、価値がある」として金価格を抑える姿勢でした。 そのため、2〜3%の金利をとる金リース、そして金先物取引、及びオプション取引で、市場に金を供給していました。これは、価格高騰の後の、金の増産と重なって、市場の金を下げる効果を生んでいたのです。
このため1990年代には、前掲表のように、金価格は下落して低迷し、「金は死んだ」とまで言われたのです。 ◎ペーパー・マネーを発行する中央銀行は、どこも、「マネーの信用の根源は政府信用と国民経済である。つまり国債への信用である。ゴールドではない。」としています。これが、1990年代に金を放出した理由だったのです。
【転換】◎ところが、前述のように、1999年のワシントン協定以降は、3度に渡ってゴールドの供給制限がされます。 欧州系の(スイス、英国、スウェーデンなど14ヵ国)の中央銀行の金政策は、市場への供給制限という1990年代とは、まるで逆方向に転換したのです。 まとまった最大量のゴールドバー(約3万トン)を持っているはずの中央銀行が、1999年以降、3度のワシントン協定で15年間、高騰した価格を冷ます金の売却を、表向きでは制限している理由は何か? その理由を、フェルナンド・リップスは『いまなぜ金復活なのか』では「謎だ」と韜晦(とうかい)していますが、恐らく2000年からの、米ドルに対抗したユーロの成立が視野にはいっていたように思えます。
◎2000年代では、金政策が明らかに変わったのです。この中央銀行の方針転換が、2000年代の、ゴールド市場への金供給を減らし、レバレッジをかけたヘッジ・ファンドの買いによって、価格を高騰させます。
続く・・・・・
2010年11月15日
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