2016年02月09日

吉田繁治さんの転載記事編

転載そのままです。
スマソ。

<Vol.351:『2020年 世界経済の勝者と敗者』を読む
      ・・・質問と回答の特集号>

【目次】

1.日本の世帯貯蓄率について

2.国債は、次世代に残す金融資産ではないかという説について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.日本の世帯貯蓄率について

浜田宏一氏は、同書の中で、「日本では物価が下がるというデフレ
予想から、お金にしがみつき、経済の成長を阻害している。政府が
インフレにもって行けば、お金を使うように変わる」と言っていま
す。

クルーグマンと浜田氏を含む「リフレ派」に共通する主張です。先
行きの物価が下がるという予想が行き渡っていると、人々は、消費
を先延ばしにして(=所得から貯蓄し)、経済は不況になるという
のが、リレフ派のいうマネー増発策の理論的な根拠になっています。

【リフレ派の主張】
「インフレ目標」が効果を生んで、物価が上がるという予想に変わ
ると(インフレ期待)、貯蓄(=消費の将来への先延ばし)を減ら
して、所得から多くを使うようになる。

そうなると需要が増えて、経済は活性化する。消費は企業の売上だ
から、売上が増える企業の利益は、増える。企業利益が上がると雇
用が増え、賃金も上がるという好循環になって行く、というもので
す。

【異なる事実】
これに対して、当方は、家計が消費をしないで貯める貯蓄率が
2010年からは、可処分所得に対し0%からマイナスになっている
(国民経済計算の世帯の貯蓄)。2000年代から平均所得が減ってき
た日本の世帯は、すでに、貯蓄以上に消費している。

「お金にしがみついている」という立論は、誤りである。誤った前
提から導いたリフレ策は、掛け違ったボタンのように、結論でも間
違えることを示しました。

【質問の骨子】
読者の方からの共通の質問は、貯蓄率は、経済の当年度のフロー
(商品とマネーの流れ)であり、過去から貯めてきたストック(貯
蓄額)ではない。高齢者を中心に、わが国の貯蓄額は多いので、そ
れを「お金にしがみつく」と表現したのだろう。高齢者世帯が、貯
蓄を崩して使えば、需要は増えるという主旨のものでした。

この質問に答えるには、若干長い論証が必要です。世界中で、まだ、
この議論は登場していないからです。本稿で試みます。

▼論理的な回答

【高齢世帯の収入と支出】
まず高齢者(世帯主が65歳以上を言います)の世帯の、家計の収入
と支出から見ます。(総務省統計局:高齢者の家計)。多くが定年
退職し、年金世帯になっているのが65歳以上です。

〔高齢の世帯の家計収支(65歳以上で無職)〕

    2005年   2007年   2009年
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 
収入  23.1万円  22.9万円  22.7万円 
支出  26.8万円  27.6万円  27.1万円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
不足  -3.7万円  -4.7万円  -4.4万円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
http://www.stat.go.jp/data/topics/topi482.htm

平均で23万円くらいの収入のうち90%(20.7万円:夫婦)は年金で
す。平均消費支出はほぼ27万円で、毎月4万円くらい不足します

(注)別の統計では、5万円不足です。各統計には誤差があります。
2009年までのデータですが、2016年現在も、ほぼ同じです。この高
齢世帯の収入のうち、87.6%(19.9万円)が2人の合計年金です。

【年金収入が90%】
年金がほぼ90%を占める収入である高齢世帯でも、1カ月に30万円
くらいの消費支出が必要であり、不足する約5万円が預金の取り崩
しであると記憶しておいていいでしょう。

総世帯数の1/3に増えた年金世帯は、収入以上に消費をし、預金を
崩しています。これは世界で普通のことであり、特殊ではない。

経済学では「ライフサイクル仮説」と言っています。(注)年金制
度がなかった時代は、3世代同居が生活方法でした。

2010年代は、この年金世帯の増加により、総世帯の合計貯蓄率も、
ゼロかマイナスになっています。

【貯蓄率ゼロは日本だけ】
先進国で世帯の貯蓄率ゼロは、高齢化が先頭の日本だけです。所得
以上にローンで消費するとされていた米国も、08年のリーマン危機
以降は、可処分所得に対する貯蓄は5%に増えています(2014年)。

社会福祉が充実しているスウェーデンの世帯貯蓄率は、15%と高い。
社会保障が十分なら、現役世帯は安心して使うので、貯蓄率が下が
るという通説は、北欧については違っています。

【高齢世帯の貯直額】
高齢世帯(2人以上)の貯蓄額は、以下の推移です。平均値と中央
値を示します。平均値は、少数の人が1億円以上の貯蓄額だと、底
上げされます。

金融資産は、所得より格差があるため、中央値が必要です。これも
2009年までですが、2016年もほぼ同じです。退職後に金融資産が増
えるは、退職金によります。

     2005年    2007年   2009年   
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
平均値  2484万円   2481万円  2305万円 
中央値  1615万円   1626万円  1502万円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2005年に比べて平均貯蓄が179万円減っていますが、預金の取り崩
しと、2009年はリーマン危機の波及で株価が下落していたからです。
株価は、現在は当時の2.1倍に上がって回復しているので、世帯預
金は増えていませんが、高齢世帯の金融資産では、前年比で100万
円は増えたようになっています

平均で2305万円(09年)である高齢者の金融資産は、以下です。
預貯金1461万円、生命保険433万円、有価証券(株式)401万円。

生命保険は基金であり、死亡か傷病のときの給付です。生活費とし
て使えるものとは性格が違います。使える金融資産は、預貯金の
1461万円、有価証券の401万円、合計で1862万円でしょう。

問題は、この1862万円は多い金融資産か、少ないかです。
基準はどこに求めるべきか。いつまで使えるか、でしょう。

上記のように、平均世帯では1ヵ月に5万円くらいの不足があり、現
役時代に貯めてきた預金が、崩されています。

65歳後の平均余命は、男性が19年、女性が24年です。奥さんだけに
なっても先行き24年間は、預金を崩す必要があるでしょう。夫が亡
くなると、その後は遺族年金になって、ほぼ3/4に減額されるから
です。

〔1ヵ月5万円×12か月×25年=必要額1500万円〕です。

平均で言えば、〔使える金融資産1862万円―1500万円=362万円〕
です。362万円が、子孫に残す金融資産の遺産になるでしょう。

ただし金融資産額の中央値(もっとも世帯数が多い)で言えば、生
命保険(約400万円)を引くと、使える金融資産は1100万円です。

65歳以上の人がいるのは、2012年で2093万世帯(4817万世帯のうち
43.4%)です。65歳以上の人口は、2014年で2383万人、総人口に占
める割合は25.9%です。人口の4人に1人が65歳以上です。2035年に
は65歳以上が3741万人(総人口の33%)に増えます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/1-
2.html
http://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics84.pdf

【預金取り崩しで、いつまでもつか】
金融資産が中央値の場合、毎月平均5万円の取り崩しは、〔1100÷
5万円=220ヵ月(18年)で枯渇します。男性年齢が83歳のときです。

以上が「豊富だ」と言われる、わが国の高齢者貯蓄の実態です。
改めて計算してみれば、余裕がある金融資産とまでは言えせん。

余裕があるのは、金融資産で退職金が多い上位15%(6世帯に1世
帯)でしょう。6世帯のうち5世帯では、先行きの預金が不足します。

【年2%のインフレの継続を考慮に入れると】
ここで、インフレを考慮に入れてみます。リフレ派は、将来にわた
って2%のインフレが必要と主張するからです。

平均余命を、女性の24年とします。中央値は12年です。〔1.02の
12乗=1.27〕です。リフレ派の主張をたどれば、12年後の物価は、
今の1.27倍です。

【1世帯あたりの年金支給額は、増やせないだろう】
高齢者世帯の年金が、政府の財政赤字の圧力から、インフレで増え
るとは想定できません。インフレ調整があっても、おそらく、ごく、
わずかです。

世帯の平均支出の27.1万円は、上がる前と同じ品質と量の商品を買
う場合、34.4万円に増えざるを得ません。ところが、平均の年金支
給額が増えない場合、世帯収入は22.7万円のままでしょう。

このため預金の取り崩し額は12年後に、〔インフレで増えた支出
34.4万円―世帯収入22.7万円=11.7万円〕に拡大するでしょう。消
費数量の増加によってではない。物価の上昇によって、です。

平均余命は、その先も12年あります。2%のインフレが恒常的にな
れば、現在に比べた24年後の物価は、1.02の24乗=1.6倍です。

高齢世帯が現在と同じ商品量を買えば、〔27.1万円×1.6倍=43.4
万円〕に必要な支出が膨らむことを示します。預金の取り崩し額は、
1か月で20万円、12年で1728万円相当になります。

◎以上から、わが国では、2%のインフレが恒常的になった場合、
現在の高齢者の金融資産は、上位の世帯でも不足することになりま
す。

▼2.リフレ派の理論は、日本では適用できない

以上から論理的に言って、「インフレなれば、世帯はより多く支出
する」というリフレ派の前提(理論)は、年金世帯が1/3を占める
ようになっているわが国では、当てはまらないと見ています。

【物価が上がると、逆に、消費が縮小する可能性が高い】
物価が上がるようになると、年金が収入の90%を占める高齢世帯は
「今のまま使えば、生きているうちに預金がなくなる」という将来
の不安から、今買っているものより、安いものを探して買い、消費
支出を抑制するようになることが想定できるからです。

(注)事実、高齢世帯では、男性の84%、女性の88%が、将来の生
活に不安があると答えています。意識の上で十分な金融資産がある
と考える世帯は、15%(6世帯に1世帯)くらいと想定できます。
(2013年度 生活保障に関するアンケート)

年金額を増やすことは、総世帯数の2/3の現役世帯の、税負担と社
会保険料の負担を増やすことになるので、それは政治的にも経済的
にも無理です。

クルーグマンと浜田氏を旗手とするリフレ派の基本主張は「物価が
上がれば、世帯は消費支出を増やし、企業の売上は増える」という
ものです。

このリフレ理論は、金額が増えない年金で生活する世帯が3世帯に
1世帯になった日本では、当てはまらないものに思えます。

過去の経済現象から組み上げるしかない経済理論は、世界で先頭を
走る日本の社会を想定していません。あらゆる理論は、過去の現象
から導かれたものです。人間には、この方法しかない。未来は事実
ではないからです。

リフレ派の主張の誤りは、世帯消費の減少として明らかになりつつ
あります。誤った主張は修正すべきでしょう。政府と日銀は、以上
に対して、どう回答するでしょうか。

【2人以上の世帯の家計収支】
下に示すのは、2013年4月からの異次元緩和以降の、総世帯の名目
収入、名目消費額、実質消費(買われた商品数量)の前年比です。

2%のインフレ目標を設定した異次元緩和の後の消費は、実は、減
っています。

政府は、少し先になり脱デフレがはっきりし、インフ予想になると
消費額は増えると言っていますが、疑問です。

所得が増えていないという理由で、消費が増えていないからです。
消費税が上がった分(消費者物価では、非課税があるので2%分)、
消費額が減っています。

  2013年  2014年 2015年10月 15年11月 15年12月
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名目収入  1.0%  -0.7%  -0.6%  -1.4%  -2.7%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名目消費  1.5%  0.3%  -2.1%   -2.5%  -4.2%
物価上昇  0.5%  3.4%  0.3%   0.4%   0.2%
実質消費  1.0%  -2.9%  -2.4%   -2.9%  -4.4%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(注)名目は物価上昇を含む金額です。これが、企業の消費財の合
計売上に相当します。実質は、買われた商品の物価上昇を引いたも
のです。世帯が購入した商品数量と理解してください。消費者物価
上昇(CPI)の全体とは、若干の差異があります。以下のサイトか
ら集計しました。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/index.htm

政府は、政府自身が集計した以上のデータを、取り上げて論じよう
とはしません。安倍内閣になって、なぜか政府寄りが増えたメディ
アも、反政府になるのでこのデータを取り上げません。(注)家計
簿を細かく記録する家計消費のデータには、高齢世帯のものが多い
という言い訳がされることが多いのです。

■2.国債は、次世代に残す金融資産ではないかという説について

【質問】
国債は、政府の負債証券であるが、それは持ち手(95%が金融機
関)にとって金融資産である。国民は、銀行へ預金や生命保険の基
金を通じて、間接的に国債を保有している。国債は、次世代に残す
ことができる金融資産でもあるので、問題にはならないのではない
か。

【回答】
これは、リチャード・クー氏も言っていたことです。国債は、確か
に持ち手にとっては、貸付証券という金融資産です。子孫に遺す相
続もできます。

政府の借金も将来に残るものですが、同額が金融資産になるので、
問題ではないというものです。

◎しかし国債は、政府が将来も利払いができ、償還できるという信
用がある限りにおいて、有効な金融資産です。

国債の金額が、国民経済(GDP)に対して利払いができ償還ができ
る範囲のものであるとき、有効な資産ということです。

利払いと償還が困難になるくらい政府負債の累計が大きくなると、
その国の国債は、
(1)まず「値下がり(国債金利の上昇)」になり、
(2)次に、下がる国債の買い手がなくなって、「暴落」します。

◎国債を含む証券は、「額面金額やそれに近い価格で買い手があ
る」という価値です。株券の価値も同じであり、「株価は、その価
格での買い手があるからその価値」という性格をもちます。

以下のように言えます。

【結論】
(1)国債は、政府に、償還できるという信用があるとき、価値を
もつ金融資産である。

(2)政府の、将来の利払いと返済が困難と見られるくらい国債の
額が大きくなると、発行額面での買い手が消えるため、金融資産と
しての価値は、下がって行く。

以上から、国民経済(GDP)に対して大きすぎる国債は、その価値
が問題になって行きます。現在、わが国の政府負債は、GDPに対し
て2.4倍(1200兆円)です。このうち、国債は1000兆円くらいです。
あとは借入金です。

政府財政が赤字なので、毎年、30〜40兆円の国債が増えて行きます
(年率増加3〜4%)。これが、いつ、「もうこれ以上になると、政
府は返せないだろう」と、買い手から認識されるかどうか、です。
国債の価値はそこまで、です。

名目GDPの増え方が2%未満と小さいか、マイナスの場合、早晩、問
題になって行きます。

転載終わり。




posted by 秀さん at 04:12| ハノイ | Comment(0) | TrackBack(0) | ベトナムで政治・経済雑感編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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